大判例

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広島高等裁判所 昭和30年(う)124号 判決

弁護人の論旨は、原判決は本件自転車は磯部弘昌が窃取した品であると認定しているけれども右の事実を認定し得べき証拠は記録上全然存しない。従つて原判決には証拠なくして事実を認定した違法があるというにあり、又被告人の論旨は、自分は磯部弘昌に頼まれ本件自転車を広島市若草町特殊下宿業河野四郎に中村靖明名義を以て金三千七百円にて質入れしたけれども当時右は盗品であることは全然知らなかつたもので原判決には右知情の点において事実の誤認があるというにある。

よつて記録を調査するに、なるほど本件は被告人の弁解する磯部弘昌なる者が検挙取調べられていない関係上同人が窃取したという直接の資料は記録上現われていないけれども、しかし原判決挙示の後河内静馬の検事に対する供述調書の記載によれば、本件自転車は昭和二九年九月九日午後二時半から同三時頃迄の間に同人方で盗難に罹つたものであることが明らかであり、更に原判決挙示の被告人の原審公判廷における供述によれば、被告人は同月一〇日頃予て刑務所で知合つた磯部弘昌から本件自転車を他に質入れ方を依頼され、鑑札もないのでおかしいと思つたがこれを引受けて受取つたというのであるから、以上二つの証拠から本件自転車は磯部弘昌なる者が窃取したものであること及び被告人は当時右自転車が賍物であることにつき少くも未必の故意を有していたと推断するに難くないのである。従つて原判決は証拠なくして事実を認定したというのは当らないところであるのみならず原審並びに当審において取調べた諸般の証拠に徴するも原判決の右の認定に所論のような誤認があるとは認められない。(ただ当審における事実取調べの結果によれば、本件の牙保先につき一部誤認と認められる点があるけれども、右は判決に影響を及ぼすこと明らかなものということはできない)それ故論旨はいずれも理由がない。

なお職権を以て調査するに、原判決はその証拠において単に「前科調書」と挙示し、法令の適用において刑法第五六条第五七条を示して累犯加重をしているけれども、右累犯加重の基礎となるべき前科についての事実判示をしていないのは理由不備の違法があるものといわざるを得ない。従つて原判決はこの点において破棄を免れない。

(裁判長判事 柴原八一 判事 尾坂貞治 判事 池田章)

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